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1ヶ月毎日ブログ書く企画ではじめたブログです。

宇宙スタートアップの未来には、夢を形にする熱意が集う

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「SPACETIDE 2018」という宇宙産業・宇宙ビジネスをテーマにしたカンファレンスに参加して、いくつかのセッションを聴講してきた。 (*1)
業界のリーダー、トップランナーと呼ぶにふさわしいメンバーが集まって、トークを繰り広げる、まさに宇宙事業の先端の集合地点というような場だった。

話を聞きながら、いろんなことを思ったのだけど、一言で自分なりの感想としてまとめると。

「宇宙産業は既存の事業づくり・事業拡大の手法や定石が通じないことも多い困難なフィールド。だからこそ、チャレンジスピリットに溢れた人たちが集まってくる。」

まず事業づくりという意味で考える。
この10年くらいで特にスタートアップ界隈から普及した「リーン・スタートアップ」という考え方ならび事業開発手法がある。私なりの解釈としては「小さく始めろ、顧客に試作物が刺さるか仮説検証しろ、そのサイクルを高速で積んでいきビジネスが顧客にフィットして伸びていくかにたどり着け」という手法だ。
この手法は、特にWebサービス開発においてはすさまじく相性が良かったと思われる。試作品(Minimum Viable Product = MVP,実用最小限の製品)を作るにしてもWebならばコストもかからない、すぐ作れる。そして仮説に基いて顧客に試してもらうということも行いやすい。B2Cはもちろんのこと、B2Bでもこのやり方で事業発展の突破口を開いたケースは多い。

しかし、宇宙産業と考えた時に、リーン・スタートアップの手法は俄然ハードルが上がってくる。
先に断っておくと、宇宙産業といっても「宇宙空間やそこにあるモノ、情報などを利活用して地上の既存事業にインパクトをもたらす」タイプ(たとえば衛星情報を使って農業効率化とか)と、「宇宙空間や他天体の開発等によって、事業分野それ自体を開拓していく」タイプ(たとえば月面を開発して資源採掘するとか)とでも、相当に本質が変わってくる。
とはいえいずれにしても、Webでソリューションを体現していくような事業とは違って、緻密かつ丈夫な宇宙用ハードウェアや、あるいはまだ存在しないデバイスやシステムを1から作っていくような「難易度が高く、費用が桁違いにかかる」挑戦していくことが欠かせない、ということも多い。
こうなってくると、リーン・スタートアップのような手法は、Webサービス開発のときにような進め方が難しい。というのは、何かをつくってまず実証しようというだけでもとんでもないお金がかかるので、出来たてのベンチャーや小企業にはかなり大変なのだ。

だったら資金調達してくればいいじゃないですか、というのも半分はそうだと思うけど、もう半分はそうそううまくいかないというのもなんとなく分かってきた。というのは、多くのベンチャー・キャピタルは、それぞのファンドに償還期間があって、だいたい10年くらいが多い。そうなると、投資したベンチャーがその期間内に結果(IPOや買収など)を出してくれない資金が回収できず、そうなるくらいなら投資しないよ、という力学が働いても全然おかしくないのだ。

ispaceという月面探索ローバーを開発するなどで有名なベンチャーが昨年101億円の調達をして話題になった。(*2) これは世界を見回しても珍しい、シリーズAでの巨額の資金調達であったそうだ(SPACETIDEの登壇者のどなたが言ってた)。このニュースを読んでみると、資金の出し手がいわゆるVCより一般的な大企業といわれる企業が多いことに気づく。
事業会社であれば、ファンドの償還期間の縛りがないし、またほかの事業で会社に利益が出ているなら、投資事業でしっかりリスクを取ろうという大きな決定ができるのではないかと思った。

宇宙に飛び出て世界の誰もがやっていない事業をやるというのは、基本的にどこまでいってもリスクが大きい。というか、リスクを算出するに充分なほどの過去の実績を世界の誰も持っていないということになる。
仮になんらかの事業(宇宙以外)で成果を出している人がいるとしても、その人の経験が必ずしも宇宙ビジネスでもマッチして結果につながるかどうかは正直わからないのだ。

どう転ぶか分からない。産業の未来の方向性の予測は立てることができるし、みな必死でやっているけど、予知はできない。その現状状態を、無秩序で前例がないからイヤだと思うか、カオスへの挑戦だが自分が道を作るチャレンジの場ととれるかどうかで、宇宙ビジネスに取り組む人、組織が成果を出せるかの確率もまるで変わってくるはずだ。
別の見方をすると、テクノロジーに徹底的に依拠し、それでようやく初めて可能になりうるという困難な挑戦だからこそ。逆説的だが、人ひとりひとりのマインドセット、そして人の集合体たるチームや組織のマネジメントによって、結果がまるで変わってくるとも言えそうだ。
SpaceXやBlue Originに限らず、あらゆる宇宙スタートアップは、テクノロジーという変数はどのみち突き詰めざるを得ない(ことが多いと思う)。その中で「人・組織」という変数をどう扱っていくか、結果が出るようにチューニングしていくかが問われるということ。

とにもかくにも、宇宙ビジネスに関して本気をかけて本気で熱い人々が集まるんだな〜というのが分かってきて。お金や肩書だけなら、もっとそれを得るに近道な業界、業種はあるはずだけど、まさに「夢」があって、そこを追うことに誇りを持っている人たちがどんどん集まっている。
本心で、本当に納得してわくわくできる仕事をすることが、こと宇宙ベンチャーにおいては、職責や立場に関係なく、すさまじく大事なことに思った。それをできる組織は強い、というかそうであってはじめてハードな道の先にたどり着ける。運も、味方にして。

特にオチはないけど。そこに何か少しでも関わっていくことはできたらと思う。

そういえば先日NHK BS1で放送されていたispaceの月面探索レースへの挑戦を追ったドキュメント番組も、面白かった。ローバーを徹底して改良していくプロセスが丹念に特集されていて、その技術水準の高さと実装力、そこにこめる情熱がひしひしと伝わる番組だった。5/13(日)10時に再放送するようなので未見の方はぜひ。(*3)


*1 www.spacetide.jp

*2 japanese.engadget.com

*3 www.nhk.or.jp