先回り謝罪社会
さっきファミレスにいたとき、厨房から「ガシャーン」という音がして、そのあとに間髪入れずに男性店員さんの「失礼しました〜!」というデッカイ声が店内に響いた。
これは日本の飲食店ではよくある光景だ。
この環境に慣らされていたら「失礼を謝罪できる日本の良さ」みたいな結論づけをする人もいそうだけど。しかし一歩引いて見てみると、なんかこの光景って異常なんじゃないかと思えてくる。
だって、別に誰にも迷惑かけてないじゃん。確かに、調理器具を落として、2秒くらいガシャーンという音は響いたよ。でも、それってほんとにただの音だよね。調理場での話なら、お客さんは誰もケガもしないわけだし。
たかだか2秒くらいの音って謝罪対象なのか?
アメリカ、中国、ヨーロッパ、どこの国でもいいが、海外にいることを想像してほしい。その国の料理店に入って、店員が調理器具を落っことして「I'm sorrrryyyyyy!!!」みたいなことを店中に聞こえる声で言うのが想像できるだろうか? 1mmも想像できない。言っていたらギョッとして、やばい店に入ってしまったのかもしれないとすらぼくは思うかも。
でも日本だと、これをでかい声で言う店員がいる店が、「店員教育がなされた店」というラベリングになるらしい。
結論から言う。日本は「先回り謝罪社会」になってしまった。いつからかはわからない。たぶん社会文化に関する資料を調べれば、なにがしかの情報は出てくると思うが、今は時間もないしスルーしておく。
予想だけど、たぶん1990年代くらいから言われ始めたのではと思っている。
いや、これがけっして悪いとは考えていない。しかしながら、謝罪すべきと思えないシチュエーションで、謝罪対象不在の、声だけがやたら響く「失礼しました〜!」が違和感がある。
たぶん「サービス」という言葉が社会に敷衍してから、こういう文化が変わったんだと思っている。サービス精神の名のもとに、そして「お客様は神様です」の三波春夫のフレーズの曲解も合わせて、だんだん謎の「先回り謝罪」がスタンダードになっていったのではないだろうか。
結局、そうしたほうが楽だから、だと思う。理由なく文化は継続しない。クレーマーに相手するくらいなら、先回りして芽を摘んだほうが、きっと楽だ。そういうことになったのだろう。
「日本は悪くなっている」…50年近く前から日本を見ていますと、いまは天国です。小中学校の先生は生徒を殴る蹴る、駅のホームでは火のついたタバコの吸い殻が頭に当たり、25歳で結婚してない女はボロクソに言われ、ゲイやレズは大笑いされ、左利きは迷惑だから飯を食うなと言われる、そんな国でした
— 田中泰延 (@hironobutnk) May 28, 2018
このツイートはたぶん真実で、全般的に日本もよくなっているんだろう。そのプロセスのなかで、なんともいえない方向に来たものもある。そういうことかと思っている。