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10年以上ぶりに観る攻殻機動隊SACが面白すぎる理由

なんとはなしにNetflix攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXを見始めたら、もはやあまりの面白さに衝撃を受けている。

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ぼくが初めてこの作品を観たのはたしか2006年、大学2年生のときだった。そのときに2nd GIGまで見て、Solid State Societyはリアルタイムではないがかなり早く観たよう気がする。んで、そのあとで2009年頃に1回くらい見返したことがあったような気もするが、およそそこから10年以上観ることなく過ごしてきた。

で、今回たまたまNetflixでSACのシーズン1(正確にはシーズンという言い方はしていないのだが置いといて)の1話から観始めたらもうなんなんこれ面白すぎ、絵も音楽も良すぎ、たまらんやろという感じになっている。

これは、10年以上観なかったから、つまり記憶がリフレッシュされたから面白く感じているだろうか? 半分はそうかもしれないが、半分はそうではないと思っている。ストーリーに付いて、詳細は覚えていないものの、たとえばシーズン1であれば、第1話が芸者による大臣襲撃事件というのは覚えているし、2話が無人多脚戦車の暴走というのも覚えている。だから、本当にフレッシュに観ているわけじゃない。むしろ、その10年以上前に観た時でもめちゃくちゃおもしろかったので鮮烈に記憶に残っているというべきなんだろう。

いま観て何が面白いのかというと、もちろん圧倒的な世界観のディテールの強さとか、今見ても十二分に美しいアニメーションの流れるような動きと、声優さんの演技と音響の完璧なマッチと、1話完結型ストーリーのまとまりのよさとか、要素的には列挙できる。だが、分解した要素の列挙が面白さの表現として妥当なのかというと、もちろん間違ってはいないが、すべてを現しているわけでもないように思っている。 要素の集合を越えた、なんらかの面白さを、ぼくはこの作品の視聴体験から受け取っているように思っている。

じゃあそれはなにかという話だが、単に思いつきとして考えているのは、「組織に関する実地感覚と知識体系が自分の中で10年前に比べて遥かに深まっているから」ではないかということだ。 10年以上前というと、ぼくはまだ新卒で大企業に入って1年働いたかどうか、という頃だった。そもそも社会に対する洞察を深めるほどの意識もなかったし、なんとなく内定をもらえた(しかし大好きだった)会社で楽しいことや辛いことがある中で働きながら、とりとめもなく思考していた頃である。自分が関わる組織といっても、その会社のなかの1部門でしかなかったし、極めて限定的な体験と知識に基づいて、ぼくは組織というものを捉えていたのではないかと思う。 しかしその後で、大企業をやめてスタートアップに入り、また並行して小規模なコミュニティやNPOに関わったりして、さらに数年してから会社をやめて独立して仕事をしはじめていろんな組織と関わりながら仕事をさせてもらうようになったなかで、組織に関する体験の経験値が、量という意味でも多様さという意味でも、20代前半の頃に比べると相当に増えていることは間違いないと思っている。

という自分の変化があったうえで、この「組織を描く」ことが1つのテーマである(と今のぼくには受け取れる)作品である攻殻機動隊SACを観たときに、そこから受け取れる感情の量と質が、かつての自分よりも遥かに生々しく、また一方でメタ的な結びつけができているような気がしている(まあこれも、気がしているだけかもしれないが)。 たとえば、少佐(草薙素子)が第1話で部下であるトグサの射撃練習の様子を見て「経費の無駄遣いだな、だが先日の射撃は良い腕だった」といいつつ、「なんのためにお前を引き抜いたと思っている。強みを生かして貢献しろ」と声をかけるところ。 このシーン、20代前半の僕にとっては、全く何も刺さらない、単なるシーンであったことだろう。 だが今の僕にはこのシーンは、 「向上心があるものの、うまく力を発揮しきれていない部下に対して、上司が冗談まじりに声をかけつつ、部下に対する期待をしっかりと伝え、それに対するアクションをそっと促す」という、マネジメントの名シーンだと感じられるわけである。 そして、トグサはこのあとで、事件の鍵である現場の料亭で起きていた謎を解き明かし、ギリギリのタイミングでの事件解決に大きな貢献をするのである。これにより、トグサは自信をつけるとともに、上司である少佐に対する信頼関係が強まったことが言外に想像されうるわけだ。

というような組織における人の動きのリアリティが、説明ゼリフではなく、なめらか演技と描写を通して伝わってくる。それこそ、この攻殻機動隊SACが、今の僕にとって圧倒的に面白く感じられるひとつの要因なのではないかと、そう思うのだ。

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